80年代前半に結成されたイギリス出身のロックバンド。
彼らの特徴は、作品ごとに時代を反映させたサウンドを取り入れる柔軟な音楽性。その変化自在にバンドのカラーを変えられる様から「カメレオンバンド」の異名を持つ。(日本だけかも)
本作はそんな彼らによる三作目の作品で、ロック史においても彼らのディスコグラフィにおいても最高傑作の呼び声が高い。
ダンスカルチャー色に染まった出世作
1stではネオアコの甘くて優しいメロディ、2ndではストレートなロックンロールと、デビュー時から異なる音楽性を披露していたバンドだったが、次にたどり着いたのはハウスだった。
これは当時の音楽シーンにてダンスカルチャーが盛んであったことから、その影響が強く反映された作品だと言われている。プロデューサーには、アンドリュー・ウェザオール、ジ・オーブなど、テクノの世界に精通した音楽家を迎えていることからも、制作の段階で方向性ははっきりしていたことがわかる。
「Screamadelica」にてプライマル・スクリームは初めてヒットを経験。後の更なる飛躍のきっかけとなり、人気バンドの仲間入りを果たすこととなった。
力の抜けた心地よいクラブサウンド
ロックの名盤として取り上げれている事が多い今作だが、ロックと呼んで良いのかわからないほど、打ち込みや電子音が主体となっている。
ハウス特有のノリの良さがある一方、使われている音やリズムがどこを切り取っても心地よい。その雰囲気に浸かるかのように歌う脱力感のあるヴォーカルが加わり、時間が忘れるようにぼんやり聞き入ってしまいそうになる。
同じフレーズを繰り返しながら、中盤から緩やかに高揚していく曲展開の数々には、ふわふわと宙に浮いた心地よさを覚える。
これはアシッド・ハウス、マッドチェスタームーブメント期の音楽から感じられる、ドラッグの高揚感の表現手法に近いものがある。
特に前半の#2「Slip Inside This House」~#6「Inner Flight」あたりは特にお気に入りで、永遠と聴いていられるかもれない。
前述した通り、心地よいサウンドが印象的なこともあり、クラブサウンドであるにも拘わらず、涼しさすら感じさせるほど熱気が抑えられているのが印象的。
これは2000年代に登場するシケイン、BTなどの、トランスとチルアウトを組み合わせたようなアーティストとも共通する部分があると感じる。そういう意味でも本作は革新的でもあり、当時の音楽シーンを踏襲しながらも時代の一歩先を進んだサウンドである。
本作は集中してじっくり聴くより、何回も聴き流すように楽しむ方が本作の魅力に気づきやすいかもしれない。
アルバム後半で雰囲気が一変
本作のもう一つの魅力として、アルバム前半と後半で雰囲気が大きく変わること。特に後半はアナログチックな曲が多い印象で、アコギやピアノなどのサウンドが印象的である。ここからも多角的なアプローチを試みていることがわかり、ますます本作のクオリティの高さを感じさせる。
穿った解釈をすると、クラブカルチャーに染まったバンドが、チルアウトして我に返ったかのような変化の仕方である。これは次作「Give out But Don’t Give Up」への布石なのだろうか…。
後半の注目曲である#7「Loaded」は、ロックンロールな前作「Primal Scream」に収録された一曲をアンドリュー・ウェザオールが本作色にリミックスしたものである。
デモトラックもリリースされ、未だ健在な存在感
本作の関連作品として、2021年にデモ・トラックなどを収めたアルバム「Demodelica」がリリースされている。
また、近年クラブサウンドを取り入れたバンドが多く登場しているが、本作の影響を公言するバンドも多く、メディアも本作を引き合いに出してレビューをする事も多い。
このように後年のバンドやジャンルへの影響も大きく、今後も様々なジャンルのアーティストへ影響を与え続けるであろう名作である。

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