「KID A」(2000) / Radiohead

レビュー

私の心の処方箋

残念ながら私は、本作をリアルタイムで聴くことは出来なかった。しかし、一度聴いてしまえば、当時のリスナーに与えた衝撃は容易に想像できる。なにせ前作『OK COMPUTER』で、ロックバンドとして頂点に君臨した彼らが、そのロックの概念を壊すようなことをしているのだから。

とは言え、前作の成功から、バンドへの関心度は非常に高い状態にあったので、チャートアクションも各国で良好であり、日本でもオリコン3位まで上り詰めた。結果的に商業的にも大成功したといえる。

現在でこそ00年代の名作と評され、レディオヘッドの傑作の一つに挙げられている本作だが、当時は評価が真っ二つに別れた作品であった。ただ、それはあくまでも今までのレディオヘッドを聴いてきたからこその衝撃であって、評価が落ち着いた現在においては、多方面から素晴らしい賛辞をもって迎えられている作品である。彼らにとっては間違いなく『OK COMPUTER』と対を成す、もう一つの頂点である。

ロックを解体し、無機質な電子音の波で作られた、無感情で静寂な音世界。ギターの音などまるで無く、荒々しさも皆無。”うつ”を音に置き換えたような、限りなく内省的な音楽性は、まるで既存のリスナーを突き放したかのようである。”難解”というのも本作のキーワードだが、今となっては意外と聴きやすい音楽なのではないかと思っている。また、どこまで計算されているのかわからないが、聴きこむごとに新たな良さも発見できるので、聴き応えもある。そういう部分が、本作が多くの人に支持されている要因ではないだろうか。

本作は、突き抜けた名曲がないところも特徴の一つで、それがアルバム全体に漂う”緻密さ”として表現され、統一感のある作品にしている。”すべてが名曲”…、言うのは簡単だけど、あえて名曲を上げるならば#8「Idioteque」。打ち込みの強いピコピコの電子音が耳に残り、とても聴きやすいので、まずはこの曲から聴いてみることを勧めたい。

今回、このような作品となった理由としては、トム・ヨークがAutechreに影響を受けていたことがよく言われている。また、この時期にトム・ヨークが「ロックなんか退屈だ」「ゴミ音楽じゃないか!」などと何度も発言しており、嗜好や心境の変化がこのような作品に影響を及ぼしたのは想像に難くない。

個人的に本作は、うつ状態で何も考えたくない無気力のときに聴くと、非常に良く体に染み渡る。なので処方箋の役割を果たしている。気持ちが極端にふさがっている時は、本作やNew Orderのような暗い音楽が、心に寄り添ってくれているような安心感を持たせてくれるはず。人間の心はバネと同じで、一度どん底まで落ち込めばその反動で一気に飛び上がることが出来る。

話がそれたが、そんなこともあってか、以前まで『the bends』こそ傑作だと思っていた私は、現在は『KID A』の方が圧倒的に聴き返す回数は多く、とてもお気に入りの作品となっている。独特の作風のため手放しに勧めることは出来ないが、多くの方に支持されてきた作品なので、一聴の価値は大いにあると思う。

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