「Humbug」(2009) / Arctic Monkeys

レビュー
1.My Propeller
2.Crying Lightning
3.Dangerous Animals
4.Secret Door
5.Potion Approaching
6.Fire and the Thud
7.Cornerstone
8.Dance Little Liar
9.Pretty Visitors
10.The Jeweller’s Hands

渋すぎるセンスが作り出した新たな指標

2014年サマーソニックのヘッドライナーとしての来日が決定している、イギリス出身のロックバンドArctic Monkeys。その彼らが2009年に発表した3rdアルバムである。

1stアルバムが世界的に大ヒットし、10代ながらも時代の寵児となった彼ら(その飛躍ぶりは「OASIS以来の大物」と表現されるほど)。・・・おそらく今世紀最大の成功を収めたバンドであろう。そんな名声・評価とは裏腹に、淡々と作品を作ってはライブをこなす非常にクールな佇まいが印象的で、もはやベテランバンドのような風格さえ漂い出している恐るべき存在である。

その佇まいは後の作品にも大きく表れている。特に本作に関しては、デビュー当時の跳ねまわるような軽快さを期待しまうと、肩透かしを食らってしまうであろう、とても懐の深い作品となっている。前作で既にその片鱗は見せていたが、本作ではそれが顕著で、表面的なテンションの高さが排され、前作以上に渋みの効いた作品に仕上がった。演奏に威圧感というか、凄みが増したように見受けられる。

そして本作を語る上で外せないのがQueens of the Stone Age(以下QOTSA)の存在。このバンドとは2008年のフェスで共演したそうで、アクモンのメンバーが衝撃を受けたというエピソードがある。それがキッカケなのかQOTSAのフロントマンであるジョシュ・オム自ら本作のプロデュースを担当している。ストーナーロックの泥臭さやジメッとした質感を所々で感じるあたり、彼の影響が大きいのだろう。

ジョシュ・オムの力も手伝い、その変異した音楽性を持つこととなった本作は、もはや一聴で曲の全体像を把握するのは困難と言え、何回も聴かせることを要求する、いわゆるスルメ盤と呼ぶに相応しい作品である。デビュー時のいきなりの大成から着々と成熟し変化し続ける彼らにとって、本作は実験作ともいうべき異質な存在として位置づけられる事になりそうである。

本作の聴き始めでの頃、まだ良いのか悪いのかまだ判断をつけ難いにも関わらず、とりあえず何回も聴きたくなってしまうほど引き込まれたのは、一癖も二癖もある楽曲センスと演奏技術に他ならない。それらには絶妙にに計算されたものを感じ、思わず感嘆してしまった。

そもそも彼らはデビュー当時から大人びていた。若々しさを持たせながらも1stであんなにも成熟した姿を見せてしまったのだから、改めてこのバンドの懐の深を感じさせる。サウンドの質感こそアナログ感たっぷりだが、その使い方が非常に匠で、曲構成や演奏に関しても細かく練られて制作されていることが容易に想像できる。シンプルなガレージロックのリバイバルが叫ばれて久しいが、そのリバイバルの波の中から突然変異のように現れた、新世紀のモンスターロックバンドと言える(大げさか?)。

ただ、あくまでも彼らにとってはまだ三枚目のアルバム。そのあまりの成熟の早さについてこれないリスナーが多く、当然のように賛否が極端に分かれている作品である。とは言え、ここまで来ると次作はどうなってしまうのか・・・。次への期待も含めて、アクモンへの注目・人気はこれからもまだまだ続きそうだ。

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