春の到来を告げる、暖かいアルバム
ドリームポップ、シューゲイザーバンドThe Radio Dept.による3枚目のアルバム。
本作を知ったのは、私が新生活をするために引っ越しをした直後、それも春先だった。たまたま彼らが新作を出すということを知り、先行リリースされていた新曲#2「Heaven’s On Fire」を聴いて感動したのを覚えている。エコーを掛かりすぎた怠惰なヴォーカルに、鐘のようなシンセが合わさった、とても夢心地で暖かみのある世界観。暖かい陽気の時期にはこれ以上ない音楽であり、衝撃を受けたのを覚えている。
この曲に限らず、本作は一貫して日差しが降り注ぐかのような、外の暖かい陽気をパックしたような内容になっている。冬がようやく終わり、皆が待ち焦がれていた暖かい春の到来。派手さは全くといっていいほどなく、フワフワと辺りを漂うかのように淡々と曲が進んでいく。ヴォーカルにエコーがかかっていたり、他のサウンドもシューゲイザー特有の浮遊感を持たせたアプローチをしているので、全体的にサウンドの輪郭は曖昧。しかし、それがリスナーにとって日光浴をしているかのような心地よさがあり、暖かみや安心感、優しさを感じさせるのである。リスナーを日差しで包んでくれる温もりのある作品である。
本作は彼らにとって、シューゲイザーの色が薄れているアルバムということだが、シンセの音使いや楽曲のセンスは、他のバンドの追随を許さないほど素晴らしいものを持っている。とはいえギターを重ねた部分はまだ所々で聴くことが出来、表現の一つとして大事に使い分けていることが分かる。
思えばシューゲイザーに括られているバンドというのは、作品を重ねる毎に音はシンプルになったり、様々なアプローチを試みたりしているケースが多い。90年代は、時代の波に乗るために已む終えず、というのがあったが、今は様々なジャンルがしのぎを削る時代。シューゲイザーという一つの枠に収まっていたり、こだわっているのはあまりにもったいないのかもしれない。
トラックリスト
- Domestic Scene
- Heaven’s On Fire
- This Time Around
- Never Follow Suit
- A Token Of Gratitude
- The Video Dept
- Memory Loss
- David
- Four Months In The Shade
- You Stopped Making Sense
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