溢れだす溶岩
DIR EN GREYの6作目にあたるオリジナルアルバム。
前作「Withering to Death.」は、繊細なメロディと重層なバンドサウンドが織りなす作品となり、彼らの一つの完成形とも言える傑作であった。それを経て作られる本作は、果たしてどのような音楽性とメッセージが提示されるのか・・・。それは言うならば、黒に限りなく近い赤色がイメージされる作品で、まるで流れだした溶岩に覆われたようなオドロオドロしさを持っている。
ココに来てメタル色が一気に強まり、より重層で、より暴力的になったサウンド。全編通して地を這うような重さで地面を転げまわり、彼らが表現している「痛み」が直接的にぶつかってくる。ヴォーカルもいつも異常にキレており、ホイッスルボイスが所々で使われるようになった最初の作品でもある。このように、前作とは対照的にメロディを廃した曲が多いため、今まで以上に賛否を巻き起こすことになった作品である。
このような作品になった背景には、彼らが前作「Withering to Death.」リリース以降、本格的な世界進出を果たしたことが関係しているのだと思う。世界各国でもリリースされた前作を皮切りに、海外の大型ロックフェスの参加など、活動範囲、影響範囲が一気に広がったことが、本作に影響を与えていることは想像に難くない。
DIR EN GREY史上最凶の曲と言われる#4「Agitated Screams of Maggots」、より重たいサウンドアレンジが加えられた#13「Clever Sleazoid」、#6「凌辱の雨」など、シングル群が既に重苦しいので、それらが気に入っている人には受け入れられる作品であると思う。瞬間的な破壊力が凄まじく、これに耐性のある人には好まれ、一気に引き込まれるアルバムだろう。
しかし、前作や初期のメロディアスなサウンドが好きな方には、本作の暴れまわるサウンドには辟易してしまう可能性がある。ただ、冒頭の#1「Conceived Sorrow」や、後半の#9「艶かしき安息、躊躇いに微笑み」、#10「THE PLEDGE」といった、彼らの和テイストを取り入れた”聴かせる楽曲”もあり、一つの音楽性に終始しない幅広い音楽性は相変わらずである。
聴くタイミングや人を限定するアルバムになりはしたが、キレッキレのサウンドが個人的には癖になってしまい、一度ハマってしまったことで、むさぼるように聴きたくなる時がある。お気に入りは、ゆったりと進んでいく#8「Rotting Root」と、重いリフで突き進むドス黒さが癖になった#12「The Deeper Vileness」。この二曲は、シングル以外で本作を支える、重要な立ち位置にある曲だと思っている。
この作品に限らず本作以降にリリースされたアルバムは、いずれも窓口が狭くなっているが、一度入ってしまえばその世界にどっぷりとハマることになる。それはつまり、このバンドが他を寄せ付けない、自分たちの世界観を確立した証拠でもあると言える。そういう意味では、本作は彼らにとって大きな転機となったはずの作品で、彼らの歴史も「THE MARROW OF A BONE」以前・以降、という風に分けられるかも知れない。
さらに評価すべきは、世界規模のバンドになっても力を出し惜しみせず、常に全力で音楽と向き合う姿勢。彼らは常に、丸くなることなく「痛み」を表現するために試行錯誤を続け、そしてこれからも「痛み」を表現していくだろう。正直、彼ら以上に音楽に命をかけてるバンドが他にいるだろうか。DIR EN GREYの存在はもはや孤高という他ない。
トラックリスト
- CONCEIVED SORROW
- LIE BURIED WITH A VENGEANCE
- THE FATAL BELIEVER
- AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS
- GRIEF
- 凌辱の雨
- DISABLED COMPLEXES
- ROTTING ROOT
- 艶かしき安息、躊躇いに微笑み
- THE PLEDGE
- REPETITION OF HATRED
- THE DEEPER VILENESS
- CLEVER SLEAZOID
※赤マーカは、おすすめ曲
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