「The Battle of Sealand」(2007) / Airiel

レビュー

様々な音楽性を内包した、これぞ新時代のシューゲイザー

Airielの1stアルバム。荒削りながら幅広くシューゲイザーのアプローチを試みてきた5作のEP。その到達点とも言うべき作品である。個人的には近年稀にみる良作で、長く愛聴しているアルバム。クールでメロディアスな歌声や、ひんやりとした世界観とは裏腹に、水流で叩きつけるかのような力強さを持ったサウンドが特徴。地に足をつけたリズム隊の演奏や疾走感からは、ライドやグランジ系バンドを同時に連想させ、これまた私のツボにハマっている。

EP時代と変わらず、冷たい質感のサウンドメイクを施し、形を変える水の中を泳ぎ回っているかのような世界観を作りあげている。ただ、印象の強かったドリーミーなイメージが、このアルバムでは大分減ったように思う。実際に⑥を始め、ライブ感の強い曲も増え、シューゲイザーという以前にロックバンド然としたサウンドが耳に付く。 そしてなんといっても本作は、粒ぞろいの楽曲で構成されていて、そのどれもが秀逸なのである。アルバムのどの部分を切り取っても変わらないクオリティの高さに、正直驚かされた。

まずは全編サビのような完成度を誇る名曲②。その後、暴力的なノイズで一気に駆け抜ける③⑨は耳を劈くほどの痛快なナンバー。かと思えばそれとは対照的に、オーロラのような透明感と冷涼さを放つ④⑩でドリームポップを全面に打ち出している。10分近いプログレ的な⑤⑪も存在し、インディ感のあるマニアックなサウンドを追求している。・・・などなど、シューゲイザーの額縁からはみ出さんばかりの音楽性を本作で披露。特に、暴風雨のような轟音が吹き荒れる⑪は、ディープなシューゲファンにはたまらない一曲だろう。前述通りバンドサウンドが魅力な本作だが、④ではウルリッヒ・シュナウスが参加するなど、エレクトロニクスも導入している点にも注目したい。

シューゲイザーにとらわれず、様々な音楽性やアプローチを試みる姿勢は高く評価したい。ネオ・シューゲバンドは、一曲聴くとそのバンドの他の曲を大体想像できてしまうが、アリエルの場合そういう意味では想像を越えていると言える。まるで根底にある美意識を、あの手この手で変形させながら世界を拡げているかのようである。また、コード進行やメロディの使い方にハッとさせられる箇所が多く、センスの良さやバンドの力量の高さを実感する。個人的にシューゲイザーはおろか、近年のバンドで最も魅力を感じている存在である。それだけに彼らの作品がいずれも入手困難なのが非常に残念。過去の作品の再発と、製作されているであろう新作が待ち遠しくてたまらない。

トラックリスト

  1. Introduction
  2. Thinktank
  3. Thrown Idols
  4. Sugar Crystals
  5. You Kids Should Know Better
  6. Mermaid In A Manhole
  1. Stay
  2. Peoria
  3. The Release
  4. Red Friends
  5. The Big Mash-Up

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