「Loveless」(1991) / My Bloody Valentine

レビュー

90年代初頭に巻き起こったシューゲイザームーブメントを代表する作品。

ギターノイズの洪水と、それに溶け合う甘いメロディとの相乗効果で独特の世界観を構築した、90年代の大名盤。

近年シューゲイザーの再評価や、その他のジャンルからも影響を公言するアーティストが増えたことで、本作の注目度は増す一方。

本作がシーンに与えた影響や功績、魅力は何なのか。

シューゲイザーをやり尽くした作品

本作の最大の功績は、シューゲイザーという音楽をこの一枚でやり尽くしたことではないだろうか。

何層にも重ねたギターサウンドの洪水、閉鎖空間を旋回するように何回も繰り返すフレーズ、囁く様なヴォーカルとのハーモニー。

このとてつもなくサイケデリックな音空間は、聴くものの神経を夢の中へと誘うかのよう。

夢見心地で浮遊感のある世界観を表現した本作は、一枚のアルバムの中でブレずにシューゲイザーだけを徹底的に追求しているのが素晴らしい。

まるで同時期のバンドたちに「こういうのをつくりたかったんだろ?」と言わんばかり。

本作がクセになると抜け出せなくなり、中毒となったリスナーは”シューゲイザー”というキーワードで多くのバンドを追いかけはじめ、のめり込んでいく。(マイブラは寡作なのでそうするしか無い)

…シューゲイザー好きのリスナーは共感していただけるのではないだろうか。

しかし、やり尽くしたということは、ムーブメントのピークを迎えるということと同義であり、皮肉にもシューゲイザームーブメントを早々に終わらせるきっかけとなってしまったとも言われている本作。

シューゲイザームーブメントが起こって一年足らずでこの様な作品が登場してしまったことはなんとも罪深い。

ムーブメントを意識して製作開始

本作制作が始まる前は、ストーン・ローゼズが発端となったマッドチェスターが盛んで、ネオサイケ文化が浸透していた時期だった。

それと重なるようにライドが人気を集め始め、直後にペイルセインツスロウダイブなど、後にシューゲイザーと呼ばれる多くのバンドがデビューしては人気を集めていた。

そんなシーンに対し、ギターノイズを武器とした刺々しいサウンドを展開していたマイブラもそれに呼応。ケヴィン・シールズ曰く「最高のアルバムを作る」と意気込んで制作が開始された。

完璧主義的な彼がそんな意気込みを見せたことで、バンドはスタジオの籠もっての長期の制作となり、費やした期間はおよそ3年。さらには掛かった金額は約20万ポンド、日本円にして約5000万円といわれている。

レコード会社の総帥アラン・マッギーとしては、お金は出してるのに中々作品を出してこない状況に、ノイローゼ気味になっていったとか。

結局、本作の制作がきっかけでクリエイション・レコードが倒産に追い込まれた。

lovelessの功罪

後年シューゲイザーのリバイバルが盛んだが、どうしても本作の完成度の高さが立ちはだかる。特に轟音ギターを持ち味にしたバンドは、本作との比較は避けられない。

そんな中でも、アストロブライトアミューズメント・パークス・オン・ファイアーはギターサウンドの質や表現方法が純粋なフォロワーと行った感じで、Loveless好きな方にはおすすめ。

シューゲイザームーブメントに最高の作品を生み出し、ムーブメントを終焉させた本作。ロックの歴史的にも重要な一枚のためおすすめしたい。

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