「The Downward Spiral」(1994) / Nine Inch Nails

レビュー

情緒不安定な”静”と”動”

Nine Inch Nailesの代表作にして、90年台の名盤としてよく取り上げられる本作。USオルタナティブ・ロックの代表格であり、無機質で攻撃的な”インダストリアル・ロック”というジャンルをメインストリームに押し上げたグループでもある。

彼らの曲は、社会の陰を投影したような鬱々としたものが多く、本作はその最たるものだと思われる。聴いているとこちらが病んでしまいそうな、暗く重苦しい音。深い絶望感の中を這いずり、もがき苦しむように、落ち込み、暴れまわる。まるで刃物をふりまわしているかのように情緒不安定な本作は、彼らの作品の中で最も緊張感に満ちた内容となっている。

一聴しただけでは、おどろおどろしさや不気味さを感じるにとどまってしまうのだが、聴きこむごとに一音一音メロディがしっかり練られているのを感じ、気になる曲が増え、結果的に気味の悪い本作にハマっていく。個人的に本作は、究極のスルメ盤の一つであると思っている。

一曲目#1「Mr. Self Destruct」(自己破壊主義)は、タイトルも去ることながら、曲自体も本作の方向性を物語っている。ノイズまみれのサウンドで発狂したように暴走し、途中でぱたっと音が止んでおとなしくなったかと思えば、しばらくして突然また暴れだす。このように、本作は”静”と”動”の移り変わりがあまりに極端で、落ち着いて聴くことが出来ない。そもそもバンド側としても、楽しく聴かせるつもりは毛頭ないのだろうが。曲単位の移り変わりもそうだが、アルバム単位でも粒ぞろいの楽曲で、リスナーの感情を激しく揺さぶる。

しかも曲者なのが、”動”のときにカッターナイフで切りつけられるようなサウンドだったのに、”静”にシフトしたときにはやたらと美しい音色を聴かせる。#11「A Warm Place」に至っては荘厳さと穏やかさを感じ、個人的にリラックスしたい時に思わずこれだけ聴きたくなる時があるほどである。

このようにポップからかけ離れている作品だが、米国ビルボードチャートで、なんと初登場2位を記録したというから驚きである。フロントマンのトレント・レズナーは悩み多き人物だそうだが、その複雑な思考や感情を丁寧に組み立て、サウンドで表現仕切ったのが本作ということなのだろうか。

次作で二枚組の「The Fragile」を発表し、こちらも繊細かつノイジーという両極端な感情が入り交じった佳作となっているが、未だに『The Downward Spiral』がNINの傑作という評価は揺らぐことがない。ただ、いきなり本作を聴くのはおすすめできないので、メタル色の強い前作『Broken』、もしくは聴きやすい(と言われている)『With Teeth』から聴くのが良いかもしれない。

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