「cure」(1997) / 中谷美紀

レビュー

ダークサイド全開、ミステリアスなイメージが引き立つ佳作

そもそも、ドラマを見て彼女について調べようとしなかったら、中谷美紀が歌手活動をしていた事実すら知らないままだったかもしれない。冷たいほどの美しさを持ち合わせながらも、陰影の濃さも感じさせる、とてもミステリアスで知的な印象が強い女優、中谷美紀。そのイメージは、歌手活動でも大いに発揮されている部分であったりもする。

特に本作「cure」は、上記の彼女のイメージを最大限に押し広げたようなアルバムである。透明感のある歌声から、彼女の美しさがこれでもかと表現されたPVの作りまで、ガラス細工のような繊細さが広がっている。

とは言えそれは、人気女優がリリースしたアルバムだというのに、明らかに大衆向きではなく、聴く人を選ぶ作品に仕上がっている。堕落していく女性を演じながらも、僅かな光を求めて力強く立ち上がろうとする。・・・退廃芸術とでも言えそうな美しさを放つこの作品は、非常に重苦しく、聴いている方が病んでしまいそうなほどの緊張感が張り詰めている。真っ黒なジャケットもそれを如実に表している。

特に衝撃だったのは#3「砂の果実」。この曲は坂本龍一の「The Other Side of Love」のカバー曲だが、歌詞が、”生まれてこなければ本当は良かったのに”など、ネガティブ全開。他にも#5「鳥籠の宇宙」においては不穏な空気が辺りを包み込み、暗闇で一点を見つめながら体育座りでぼんやりと歌っているさまをイメージさせる。一方で#4「水族館の夜」のような幸福感のあるポップな曲で、アルバムの重苦しさから開放される瞬間もある。にも関わらず、アルバムのイメージにうまく溶け込んでいるのがまた見事である。

ちなみに本作は2枚目のオリジナルアルバムで、坂本龍一がプロデュースを行っている。そして現時点での最終作3rd「私生活」までを手がけることになる。しかし、次作は坂本龍一の色が強くなってしまうため、彼女の佇まいや魅力を他のメディアで知った方には本作「cure」をぜひ聴いてもらいたい。彼女の佇まい、美しさ、魅力などがダイレクトに伝わるのはおそらくこの作品だと思う。

トラックリスト

  1. いばらの冠
  2. 天国より野蛮
  3. 砂の果実
  4. 水族館の夜
  1. 鳥籠の宇宙
  2. Superstar
  3. キノフロニカ
  4. corpo e alma

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