「Coming Up」(1996) / Suede

レビュー

前作の完成間際に突如脱退してしまったバーナード・バトラー。本作は、大半の作曲に加え、サウンドの中軸をも担っていた彼が不在という逆境の中で制作された3rdアルバム。当然バーナードの抜けた穴いうのは大きく、バンドの存続を危うくさせるほどの危機であったと同時に、たちまち解散説が囁かれるようになったのもしかたない。

しかしバンドはその後、新たに17歳のギタリストとキーボード奏者を加えて五人編成となり心機一転し、再起を図るべくこのアルバムを作りあげた。デビューしてからグラムロック譲りの妖艶なイメージがついていた彼らだが、この作品では#1「Trash」に代表される、英国の良質な空気をたっぷり吸い込んだ極めてポップな音作りが徹底されている。

のあるギターサウンドにもギラギラとした力強さが出ており、この作品を最高水準へと押し上げている。結果としてバンドはデビュー時以上の成功を収めることとなったのである。

本作では、ブレット・アンダーソンの中性的なヴォーカルはそのままに、ノリの良い明るいロックサウンドが次々と飛び出す。当然ブレッドもそれに合わせてノリノリで歌うので、影が纏わり付くような妖しい雰囲気は吹き飛んでいる。ヒットシングル#1「Trash」のほか、パワフルなサウンドがとてもストレートに表現されている#2「Film Star」#7「Starcrazy」などは、ファンの間で人気の高い楽曲で、これらは本作だからこそ披露できた曲と言えよう。

この作品からキーボード奏者を加えたことが音楽性を広げたのか、様々なタイプの曲が混在している印象を受ける。にもかかわらず、乱雑なイメージが全く無く、それぞれの楽曲がスウェードのカラーを打ち出し、バラエティ豊かに仕上がっている。

それは、デビュー当時から既にスウェードの個性が確立していたからこそできたのだろう。それを失わず、厚みや歪みの効いたギターサウンドや明るい雰囲気に、食虫植物のような毒々しさがしっかりと組み込まれているのは、見事と言わざるを得ない。

それにしてもポップな路線にシフトした途端、すぐにその才が発揮できたのは流石。ブレッドや新加入したメンバーのポップセンスの高さを早速伺わせる内容となった。

こっちの路線の方がこのバンドは向いているのかもしれない…、そう感じたファンも少なくないはずだ。どれをシングルカットしても良いと思えるほどの完成度を誇る、起死回生の快作。

トラックリスト

  1. Trash
  2. Film Star
  3. Lazy
  4. By the Sea
  5. She
  1. Beautiful Ones
  2. Starcrazy
  3. Picnic by the Motorway
  4. The Chemistry Between Us
  5. Saturday Night

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