「Pet Sounds」(1966) / The Beach Boys

レビュー

本作がリリースされて50年余り。今なお語り継がれているビーチボーイズの代表作。ロックの名盤としてもおなじみなので、ロックファンならご存知のことだろう。

ただ、数多くのロックの名盤の中でも、とりわけ理解されにくい作品。本作の魅力は一体何なのか。

ロックバンドの意識に変革を起こしたアルバム

本作の最大の特徴は、当時としては珍しく、曲の隅々まで作り込まれたサウンド。今聞いても色褪せないヴォーカル4人のハーモニー、オルガンを始め様々な楽器を駆使した優しくて丁寧な音作りは、当時のロックバンドでは異例だったのではないか。

近年では流石に珍しいことはないが、当時としては勢い重視でノリの良い曲を作ってきたロックバンドという存在が、アート性の強い作品を生み出したことが革新的だったと言える。

後にビートルズが本作を意識して制作したと言われる大名盤「サージェント・ペパーズ~」をリリース。さらにポール・マッカートニー#8「God Only Knows」を「今まで聴いた中で最高の曲」と評した。

これを期に、同時期のロックバンドにアート志向が芽生え、アルバム単位でコンセプトを打ち出して制作された作品が増えていくことになったと思われる。

その功績からか、本作の知名度や評価は月日を経るごとに上がり、ロックの名盤としての立ち位置は確固たるものとなったと思われる。

ビーチボーイズのイメージを覆した作品

ビーチボーイズといえば、バンド名に違わず波と戯れているような爽やかでノリの良い曲を作るグループだった。

しかし本作は、前述の通り丁寧な音作りを徹底しており、雰囲気が一変している。まるで木漏れ日の中を散歩しているような、おとぎ話の中のような雰囲気を醸し出している。それがリスナーを戸惑わせたのか、リリース当初の評価は芳しくなかった。

この音楽性の変化は、中心メンバーのブライアン・ウィルソンの意向によるところが強く、実質的に彼のソロ作品と行っても差し支えない作品となっている。実際、他のメンバーはコーラスのみの参加だったという。

なおブライアンは本作制作にあたり、ビートルズの「ラバー・ソウル」に影響を受けたと語っている。そこから「サージェント・ペパーズ~」に繋がっていくので、ビートルズとの関係性を深堀りするのも面白いかもしれない。

最も美しいロックアルバム

本作は”最も美しいロックアルバム”と言われることもある。

ビーチボーイズの音楽は、暖かくて幸福感に満ちたサウンドが特徴的で、時に純心さをも感じさせる。中でも本作はそれが際立っているように感じる。

コーラスワークによって作られた、輪郭が曖昧な世界観。爪弾くギターの一音一音、バンドアンサンブルはキラキラしていて、池に反射した光の輝きのようである。目を瞑って音の中に浸ると、心が洗われていく気持ちになる。

リリースされた時代から鑑みれば、そんな美しい音で組み立てられた本作の凄さは、何となく伝わると思う。

近年のポップミュージックのルーツ

このような浮遊感のある空間を作り上げたビーチボーイズだが、後のポップミュージック、サイケデリック・ロック、ドリームポップなどのすべての基板を作り上げたと行ってもいいかもしれない。

とは言え、発売当時から現在に至るまで、人によっては評価がとても別れる作品であるのも前述のとおり。

本作がリリースされる以前のファンからはその音楽性の変化で敬遠され、後追いのロックファンからは理解され難いという理由で避けられることが多い。

英国のビートルズと切磋琢磨しながら時代を先導したバンドであり、今活躍しているバンドのルーツを辿れば、ビートルズビーチ・ボイーズにたどり着くのではないだろうか。

ロックサイドはビートルズ、ポップサイドはビーチボーイズといったところか。

ソフトロックやサイケデリックな音楽が好きな方は是非本作に挑戦してみてほしい。

トラックリスト

  1. Wouldn’t It Be Nice
  2. You Still Believe in Me
  3. That’s Not Me
  4. Don’t Talk (Put Your Head on My Shoulder)
  5. I’m Waiting for the Day
  6. Let’s Go Away for Awhile
  7. Sloop John B
  1. God Only Knows
  2. I Know There’s an Answer
  3. Here Today
  4. I Just Wasn’t Made for These Times
  5. Pet Sounds
  6. Caroline, No

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