「HELL-SEE」(2003) / syrup16g

レビュー

2008年に惜しくも解散してしまった、邦楽バンドの中でもひときわ陰の部分の表現に特化したロックバンド。

本作は1500円という価格破壊が話題になった、メジャー三作目の作品。

優しい音色に囲まれたネガティブな世界

個人的には本作収録の#2「不眠症」で彼らを知ったが、ここまでひどく陰鬱な雰囲気を醸し出すバンドが国内に存在していたことにまず驚いた。

特に印象的なのは、このバンドの陰の部分を司っている、ネガティブな歌詞とヴォーカルのインパクト。歌詞は、様々な事柄をテーマにしているが重たいものが多く、時に毒も吐く。そんな暗い歌詞を、根暗なヴォーカルが溜息を付くように淡々と、そして時に激情しながら訴える。

この陰鬱な世界観を作り上げる演奏には、空間系のサウンドを多用し、非常にドリーミーな仕上がりとなっている。サウンドの軸となるアルペジオの美しさに惹かれ、かき鳴らされるギターの質感の優しさにほっこりさせられる、とても心地よいサウンドスケープが印象的。

この輪郭の曖昧なサウンドは、シューゲイザーと共通する部分も多く、おそらく彼らもその影響を多分に受けているものと思われる。まるで、靄がかかった心の内を表現しているかのようで、孤独感や内省的な雰囲気に拍車をかける。

本作は、自分の内にこもってじっくりとその暗い世界観を味わいたいアルバム。中でも、つぶやきから始まって段々と高揚していき絶叫に至る#2「不眠症」は特に聴き応えがある。他にも、ライブ感の強い#1「イエロウ」、跳ねるようなリズムの#6「I’m 劣性」がお気に入り。一方で、サウンドの暖かみを活かした#8「月になって」#15「パレード」のような美しい曲もあり、彼らの持ち味が生かされた作品だと思う。

実は彼ら、2014年に再結成を果たし、8月に新作「Hart」を発表。そこでも彼らのサウンドは変わっていなかった。知る人ぞ知るという絶妙な立ち位置で、これからも繊細な歌詞とサウンドを持ち味に素晴らしい作品を期待したい。

トラックリスト

  1. イエロウ
  2. 不眠症
  3. Hell-see
  4. 末期症状
  5. ローラーメット
  6. I’m 劣性
  7. (This is not just)Song for me
  8. 月になって
  1. ex.人間
  2. 正常
  3. もったいない
  4. Everseen
  5. シーツ
  6. 吐く血
  7. パレード

※赤マーカーはおすすめ曲

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